前編に続く後編は、The Ants GM上田氏の人柄がよくわかり、子どもたちの指導に携わる人として、とても真摯な姿勢が伝わってきます。
サイレントリーグは、ただ指導者がベンチにいないだけの大会ではないような気がしてきました。じつはもっと奥が深く、僕たちが気づいていない、発展的可能性を感じます。
サイレントリーグ・オブ・ラグビー【インタビュー後編】

5月23日滋賀県草津市三ツ池グランド
サイレントリーグ・オブ・ラグビー
子どもの思いを探る問いかけ
Q よく見ると、いろんなプレーをしていますね。ステップを踏み変えて相手をかわしたり、パスを出すふりをするフェイントなんかも、バリエーションが豊富で、それにチャレンジする子どもたちの躍動感を感じます。
GM ラグビーワールドカップが開催され、トップレベルの選手のプレーを映像で見るようになってから、いろんなパスの出し方や、プレーを子どもたちの試合で見られるようになりました。それは子どもたちが映像で見てイメージできたからこそ、自分もやってみたいという気持ちが自然に湧いてきたからだと思います。
Q 最近、子どもたちが使う技術に制限をかけるチームもあると聞きましたが。
GM 子どもたちがやってみたくて、チャレンジしてみたものの、それはやったらダメと指導者が言えば、子どもたちはやらなくなってしまいますよね。遊び感覚で自由にやれる年代だと思うので、映像などを見てやってみたいと思ったプレーは、どんどんチャレンジすればいいと思います。
正確にできていないことが多いですけど、そんなことより、まずやってみる、そして出来るようになるために自分で工夫してみることが重要だと思います。

失敗と成功の本質
Q 結果がうまくいかなかったり失敗したとき、どのように対処していますか?
GM 例えば、パスをするとき、そこに居るだろうと判断して、見ずにパスをして失敗する子も中にはいます。そんな時、「ちゃんと見てパスをしろ!」というアプローチの仕方が、一般的だと思いますが、アンツでは「なんでそこに投げたん?」という感じで、問うようにしています。もしかしたら僕たちが思いもしなかった理由が、そのパスに込められている可能性があることも、考慮するようにしています。とにかく、失敗やミスに対して否定から入らないことが大切かと。
私たち大人(指導者や保護者)は、どうも短期間で成功が欲しいという思いが強くなってしまいがちです。それは知らずのうちに、練習の細かな部分にも現れていて、成功させるためだけの部分にフォーカスされているような気がします。成功できたから(あるいは成功したように見えたから)それでよし、じゃあ次!みたいな感じで積み上げてる感を作って、習得できたと思い込んでいる、あるいはそう思わせているところがあるように思いますね。

それでも良ければ、仲間になってください
Q 試合で成績を出すことも必要なことですか?
GM 強いチームやからこそ、人が入ってくるみたいなところは、どのスポーツ分野でもあると思いますよ。でもね、僕たちアンツの活動に参加してもらうとき、保護者の人に「僕たちの練習はこういうやり方で、こういう共通の考え方で指導してます。それでもよかったら是非、仲間になってください」。そう伝えるようにしているんですよ。
そういった考えに賛同してくれた人たちに囲まれて活動できることは、喜びを感じるし、とてもやりやすさを実感することができます。
いきいきとした子どもたちの声
Q いまも子どもたちの活気ある声が聞こえますね。
GM 子どもたちの工夫が感じられる言葉だと思います。まだまだ未熟なんでしょうけど、いろんなことを考えながら、その思いをなんとか仲間に伝えようとして、言葉に出して表現していると思います。
これこそが「活きた声」で、私たち大人目線から子どもたちへ与えられたものでないことは確かです。自分の思いをどんどん伝えるこの習慣は、必ず役にたつでしょうし、次のカテゴリーやステージへ行ったときも変わらないでしょう。
とにかくこのサイレントリーグは、想像以上のものをもたらしてくれそうな気がします。子どもたちの実際の様子を見ながら、その場で指導者どうしが話し合えるような研修会があってもいいと思いました。次は9月の開催を目指し、また準備したいと思います!
すべての子どもたちへ
今回、サイレントリーグ・オブ・ラグビーを視察し、また新たな価値観を与えてもらいました。お話を伺った上田GMは穏和で、とても整理された考え方持っている方でした。いまの子どもたちのスポーツ環境を深く分析し、第一歩を踏み出された勇気ある行動に敬意を表します。
ラグビー、サッカーと開催されたサイレントリーグが、これから日本全国で多くの子どもたちの、新しいスポーツの楽しみ方として広がっていくことを願っています。
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